地方のニュータウン、誕生から半世紀

写真はイメージです
昭和40年代~50年代にかけて大都市圏のみならず地方都市においても大規模な住宅団地が開発されました。
いま、人口減少が続く中でこのような地方にある戸建てニュータウンの風景が変化しています。
新しい入居者もないまま、初期購入者が高齢になり、次々空き家となっています。
ある地方都市での様子を時間とともに振り返ってみます。
当時花形だった街
地方のニュータウンは元々ある市街地の隣接を拡大したというよりも、少し離れた丘陵地などを造成して独立した住宅団地として出来上がりました。
キレイに整備された街区は敷地面積にも十分なゆとりがあり、有名住宅メーカーがこぞって最新モデルを建てては販売していました。
小学校や幼稚園は人口増加を見越して必ず団地内に用意されたため、子育て世代が親とは離れて独立して移住するにも申し分ありません。
住宅地中心部のメイン道路には核となるスーパーや商店・銀行・診療所が建ち、ひと通りの生活施設が整っていました。
交通では必ずバスの新路線が開業して、行き先にニュータウンの名前も誇らしげに走っていたものです。
スーパーが撤退、買い物が不便に
まず最初の変化は団地内スーパーの撤退です。
ニュータウン開発から数年、やがて平成の時代に入ると、地価の高い商業地を避け、地価の安い郊外めがけてショッピングセンターが次々開業します。
そうしてそれを取り囲むようにロードサイド型のチェーン店が出店、このような動きでどこの地方都市郊外においても同じ風景になってしまい、一方では中心市街地の空洞化の原因にもなりました。
ほぼ100%自家用車を保有する、活発な子育て世代は、日々の買い物を新しくて大きなショッピングセンターに求めました。
大都市とはちがって居住人口もそれほど多くなく商圏も限られている中では、団地内のスーパーは客足の減少による影響が顕著にあらわれます。
もともとニュータウンに出店したスーパーは時代的にも小規模なものがスタンダードで、地元の有力スーパーが経営するものでした。当時「近所のスーパー」といえばどこもこんな感じでした。
大型店出店で売上げが悪化した団地内のスーパーは撤退を余儀なくされます。
こうしてニュータウンからスーパーだけがなくなった状態がしばらく続きます。
街の風景に特に変化がなかったのは住民がまだ若かったからです。
ニュータウンを離れる人々
やがてニュータウン育ちの子供が学校を卒業し就職します。
主に団塊ジュニアと呼ばれる、人口の多い世代が抜けた影響は大きく、たちまち親世代のみの世帯ばかりになりました。
子供たちは都会へ出ていく者もあれば、あるいは、地方ではやはり家が買いやすい価格のため新しく居を構えます。
しかし、購入先はこれらニュータウンのような場所ではありません。地方でも中心部に近いところです。
地価が手ごろになった旧市街地の商店や企業の跡地を開発して分譲地がつくられるようになりました。
また、年月を経て初期購入者が高齢化するなかで、ニュータウン生活に不便を感じはじめた人は家を売ってここを出ていきました。
行き先はやはり同じく住み慣れたまちの中心市街地やその周辺です。
「都心回帰」の流れは大都市だけのものでもなく、各地の地方都市でも起こっています。
このような地方、特に小規模な都市には今までほとんどなかった分譲マンションが増えているのです。
マンションよりも圧倒的に戸建て志向が強いためこれまではデベロッパーも進出してきませんでした。
それがここ十数年で大きく変わりました。
今さらマンションが?と思われるかもしれませんが地域によっては目新しく映ったのです。
ここで起きていることを見ているだけでは…
地方ニュータウンが生まれてからの経過を追っていくと、それは平成バブルの地価高騰とバブル崩壊、大都市一極集中による地方都市の空洞化、家族構成の変化・核家族化…
すべての社会問題に翻弄され続けた結果がもっとも顕著に現れている姿に見えます。
このままでは数百戸単位で造成された住宅地が各地でゴーストタウン化するかも知れません。
県内のある自治体はニュータウンとして発展し、その人口増加で成り立っていたため、人口減少によって税収も落ち込んでいます。
せっかく出来上がった道路や上下水などのインフラもこのままでは維持管理も足を引っ張ります。
ただ、見方を替えれば、こういった住宅地にある物件は地価の下落によって一次取得者層にも手に入れやすいというメリットがあります。
所得がいっこうに増えない中であっても、持ち家で一定以上の広さ・空間のレベルが確保できるというのは地方ならではといえます。
敷地面積も50坪以上のところがほとんどですから。
空き家が増えて衰退を待つのではなく、それぞれニュータウンの持つポテンシャルを存分に生かすことが出来れば、
こういった地方ニュータウンも別な将来のかたちが見えてきそうです。
今や会社へ毎日出社しなくても仕事が可能な、そんな時代です。
「限界ニュータウン」、負のベクトルの流れを変えるべく今が正念場です。