不動産は現金や金融資産と違ってそれを使用している人や利害関係によって相続が発生したときに簡単に分割できないということが起こり得ます。

たとえば亡くなった親名義の不動産がその子供たち相続人の一部が今後も親の後を継いで引き続き会社の事業用として必要だったりしたとき。
事業運転資金調達のために根抵当権がついていたりすると、金融機関との取引上、会社が継続しているあいだは簡単に外れることはありませんから、売るにも売れません。
あるいは親の代から長年にわたり居住の用に供されている場合などです。

これは何も不動産の規模の大小・価格にかかわらずどこでも問題になります。
そうでなくても遺産分割協議は必要で、たいていの場合、相続人同士において「はい、どうぞ。私は要りません」なんてあり得ません。

まして時間がかかればかかるほど感情的になりますから持久戦で相手が折れるということは期待できないでしょう。
どうまわりまわっても、結局は法定相続分での分割でしか解決しない結果になります。

方法は二つになります。
その不動産を相続したい(自分用に手に入れたい)人が「借金して残りの相続人に相応分を支払う」か、いっそ全てを手放して「売却して均等に分ける」か、どちらかです。

前者の場合、資金使途が自宅の建築や購入ではなく(相続の)「代償分割」による代償金となることから、個人の借入れとして一般的な住宅ローンではなく、不動産担保ローンの利用になります。
ということは審査基準も難しくなり金利も住宅ローンよりは高いです。
会社の事業用であれば既に根抵当権が設定されていたりするはずで、この借入にかかる担保評価が希望通りになるとも限らないのです。

ここまで読んで「大変だな」と思われるかもしれませんが、このような方法で解決できるとしたらまだマシなほうです。
というのは…

・相続される不動産がちゃんと親(被相続人)の名義であること
・境界など確定しており、数量が明確になっていること

が、大前提だからです。

もし、名義が親ではなくさらにまたその親の代の名義で登記されていたらどうでしょう。
会社経営に供されている(担保提供している)ときは、利害関係のある金融機関からすると現況に即して都度名義を変更しておかなくてはならないため、起こることは無いと言えます。

しかし、単に親から子、そしてまた次の代へと居住の用だったときは普段その事実を気にすることなく過ごしてしまっていることがあるのではないでしょうか。
この場合、そもそも今回の相続以前に前回の相続が完了していない、いわゆる相続協議まで行われていなかった可能性があります。

そうなるとその代にまでさかのぼって一連の戸籍謄本を洗い出し、見知らぬ人も含めたすべての相続人を巻き込んだ遺産分割協議から必要になってきます。
とても面倒かもしれません。でもこの段階で放置すればまた次の世代に痕を残しますしね。

また、登記面積や内容に明らかに現況と相違がある場合もあります。
隣接地との境界を確定したり測量したり、時間と費用がかかります。
残念ながら遠方で行ったこともないような土地が実際は全く変わって(変えられて)しまっている例だってあります。

いずれにせよ登記関係を触らずにいることは色んな意味で問題が起こります。
何か起こってからでは限られた時間の中で行動することになり、非常に重いストレスになります。

気になるという方は一度、ご家族や親の所有する不動産登記がどうなっているか確認しておくのもひとつです。いまは法務局へ出向かなくてもパソコンからインターネットで閲覧も可能になっています。

相続登記の義務化が2024年4月1日から施行されます。